バラマキ事件
小学校で過ごす一日の半分が平和に過ぎ、いちばんのお楽しみ、給食の時間に事件は起きた。
その日、給食当番だった彼はクラス全員分の春巻き約80本を教室に運ぶ役目。
・・・勿論何事も起きなかったなら、「皆で美味しく、いただきます」・・・となるはずだった。
その美味しそうな春巻きを、誤って廊下にぶちまけてしまったのだ。
いつもはひょうきんな彼の頭が、真っ白になったそうだ。
報告を受けた担任の先生はすぐに全館放送で「欠席などで残った春巻きを5年○組に届けてください」。
祈る思いで待ちかねた春巻きが続々と集まり、ひとり一本宛てではあったがなんとかみんなに食べてもらえた。
帰宅した彼は、ちょっと様子が変だった・・・・・。スイミングの帰り「毎月の進級試験の後にだけ」と決めているアイスを強請って叱られてみたり・・・。
妙にふてくされてみたり・・・。
夕食の時、弟が「今日、給食の時ね、校内放送で、クラスで余った春巻き、五年○組に持ってきてください・・って。○○君のお兄ちゃんがこぼしたって、友達から言われたよ」。
・・・・・・・・「僕、みんなにお手紙書こうと思う・・・」。
母は「思ってることを正直に書いてごらん。どうしても困ったらママも手伝ってあげるから」。
彼が書き上げた手紙はおよそこんな内容だった。
「先生とクラスのみんなへ・・・僕の不注意で春巻きをダメにしちゃってごめんなさい。
僕は頭の中が真っ白になってどうしていいか判らなかったのに、先生がすぐに校内放送で集めてくれたから、少しづつだったけどみんなに食べてもらえてよかったです。
それから、クラスのみんなが怒らずに『気にすんなよ!』って言ってくれたことがとっても嬉しかったです。ありがとう。
春巻きを持ってきてくれた全校の皆さんへ・・・皆さんが協力してくれたお陰で、みんなで給食が食べられました。本当にありがとう。これからはもっと気をつけます、ごめんなさい」。
母が手直しをすることもなく、彼の手紙は翌日クラスのみんなの前で読まれた。
みんなが拍手をしてくれて、彼はすごく嬉しかったそうだ。
その手紙は次の日の職員会議で読んでいただき一件落着したのだそうだが、後で先生から母親に連絡があり「転校生だけに、今回の件がイジメのきっかけになりはしないか、と校長が心配していたのですが、彼はいちばんいい形で責任を示したと思います」と言ってくださった。
一件、終わってみればたいしたことではないが、これから先、自分でしたことの責任をどう取るかで事態はどうにでも変わってくる、ということを彼は経験した。ドキドキして過ごした時間も、嬉しくて泣きそうになったことも、全てが彼を成長させてくれたと思う。
失敗を悔やむだけではなく、次へ活かすことを覚えたはずである。
ハルマキバラマキ事件は、彼の心にちいさな引っかき傷をつけ、爽やかな一陣の風を吹かせて、一件落着したそうな・・。
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