2007年9月23日 (日)

孤留島物語

ひょんなご縁で或る若手ピアニストに出会った。
日々の研鑽に裏打ちされたものだろうか、音楽家として、堂々たる風格をたたえながら、若者らしい爽やかさを併せ持つ、そのバランス感がとても印象的で「いつか彼の弾くピアノを聴いてみたい」と、強く感じた。

そして、その日は意外にも早くやってきた。
山口で開かれたリサイタルを聴くため、夫と私は雨の高速をひた走った。

会場に着いて、リサイタルの主催者の説明で漸くその音楽会の趣旨が飲み込めた。
ショパン作品の名演奏で世界的に知られた、故アルフレッド・コルトー氏がかつて彼の地を訪れ、投宿した際、海に浮かぶのどかな島々に惹かれ、当時の村長に「無人島を買って永住したい」と申し出たのだそうだ。
村長は「そんなに気に入ったならば、無償でお譲りしよう」と言ったが、実現せぬまま、氏は他界したのだという。
そういう経緯から、近く完成予定の多目的ホールの名称に氏の名前を冠し、「コルトー音楽祭」を定着させたいという、地元有志の方たちによるプレ音楽祭だったようである。

演奏は素晴らしく、演目の構成もまた聴衆を魅了した。
豊かな時間を過ごし、日常に戻った今も、心地よい余韻に満ちている。

かつて、世界的なピアニストが想いを寄せたその島は今、地元の人々の間で「孤留島」と呼ばれ、親しまれているそうだ。

コルトー氏とひとりの若手ピアニスト。
この夏、いちばん素敵な出会いだった。

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