ぎゃぎゃぎゃ~っ!
もの凄い音に、思わず店の勝手口のドアを開けてしまった。
隣のコインパーキングに入れようとする車が一台・・・。仕切り直しをしているところだった。一体何にぶつけたのか分からないが、あまりに気の毒で、すぐにドアを閉めた。
暫くして、夫がもう一度見てみると無事止まっている・・・と、思いきや、助手席側のドアはポールに完全に当たっていて、恐らく出庫する時はまた新たな引っかき疵が増えているはずだ。・・・と、その時、ご常連の学生さんがひとり入店してきた。
「ホントに免許持ってんのかなぁ・・」。
「爺さんじゃないのか?」まあ、夫も充分お年寄りですけど・・・。
「若葉マークも、紅葉マークもついてないみたいよ」。
「まぁ・・自損事故なら仕方ないけど、あんな調子で運転してたら自転車なんかあぶないぞ」。とまあ、結構言いたい放題。
件のお客さま、当店のプリンス。医学部ゴルフ部のスーパースターで、最近、70のベストスコアをはじき出した男である。
学業は芳しくないらしく、私たちの応援も空しく、ここ数年間留年している。優しいし、ゴルフは巧いけれど、イマイチ根性不足。
彼は、ゴルフ雑誌に夢中らしく、かまびすしい会話に乗ってくることはなかった。
もう随分前の事だが、一留した元クラスメートに「お前、今何年?」とか、「友達、居る?」とか、嫌味な問いに不機嫌な顔もせず「三年」とか「あんまり居ない」とか答えている彼を見て私たちのほうが苛ついた。
帰り際に「お前、あんなヤツにあんな事言わせてちゃダメじゃないかよ!」と、夫は本気で怒っていた。あんまり感情を露わにしない優しい奴である。
私は、いい歳をして他人の嫌な場所に触れたがるような人間が大嫌いだ。
・・・そして彼は席を立った。
・・・いつの間にか、パーキングの車も無くなっていた。
少し、嫌な予感はした。
夫が「どんな奴だったのかな・・神戸ナンバーだったから、爺さんじゃなかったんだろうな・・・」と言った瞬間、気を失いかけた。
・・・彼は「兵庫県出身」だ・・・・。
私は、いい歳をして他人の嫌な場所に触れるどころか、徹底的にえぐってしまった。
こうなったらもう、あのデコボコの車=M井君ということには永遠に気付かない振りしか無いと心に決めた。
この春は、彼の進級と交通安全を一心に願っている。
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